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2020年5月8日金曜日

Bob Dylan - Hurricane

こんばんは、古い音楽をお届けする音楽文章ラジオのお時間がやって参りました。進行は、名久井翔太です。どうぞよろしく。

早速、今日のボブ・ディランのコーナーです。

今日のボブ・ディラン

5月8日(金)


~To wait for your future like a horse that’s gone lame,
To lie in the gutter and die with no name?~

~脚の骨を折った馬のように来るはずもない未来を待ち続け
どぶに倒れ込んでも名無しのまま死んで行く~

「Only a hobo」より

今日の洋楽

今日はボブ・ディランでハリケーンです。



ボブ・ディラン作曲です。1975年のシングルで、ホット100で33位を記録しました。また1975年発売のアルバム『欲望』に収録されています。

アルバム『欲望』のハイライトともいえる作品です。ボブ・ディランはキング牧師暗殺以後、プロテスト・ソングから離れたアーティスト活動をしていました。

しかし、1974年に、プロボクサーのルービン・カーター(ニックネームはハリケーン)が自身の冤罪の無実を訴える自伝「The Sixteenth Round」を出版し、大きな反響を呼びました。

その折にふれ、ボブ・ディランはルービン・カーターの潔白を訴える曲を書きました。それが今回の歌です。

ルービン・カーターの冤罪事件は1966年の事で、ニュージャージー州で3人が射殺されたという内容で、凶器は発見されないままに、黒人だからという理由でルービンが逮捕され、白人の裁判官・裁判員ばかりの裁判に掛けられ、終身刑が言い渡された、というものです。「ハリケーン」が発表された後に、支援者がルービンに有利な証拠を集め、最終的に1988年に自由の身となりました。その後は1993年にミドル級名誉チャンピオンをルービンに与え、冤罪を救済する団体を立ち上げて、支援に勤しみましたが、2014年に亡くなりました。

日本では、1966年に放火殺人事件が起こり、同じプロボクサーの袴田巌氏が濡れ衣を着せられた、「袴田事件」という事件があります。逮捕された当初から無罪を訴えていましたが、厳しい取り調べで嘘の自白調書にサインをしてしまい、死刑を言い渡されてしまいます。こちらは最終的に、現在も過去の裁判所の判断が覆る事もなく、釈放はされ静岡県に住んでいるものの未だ有罪のままで、法務大臣の判断によっては死刑が執行されるという理不尽な結果になっています。

ハリケーンの方は、アルフレッド・ベロとアーサー・デクスター・ブラッドリーが警察の取り調べで嘘の証言を言わせて、それがキッカケでルービンの人生を大きく狂わせるものとなります。

一方の袴田事件も、味噌製造会社の専務宅から出火されたとして、工場の味噌タンクの中から血のついた衣類が発見され、それが袴田氏の物だと検察が主張しました。他にも取り調べで、トイレに行きたいと言うのにも関わらずその場で用を足させたり、取り調べのテープを流しながら自白を強要させたり、味噌タンクから発見された衣類が袴田氏には小さいと言えば「味噌の中に入っていたから縮んだ、だからこれは袴田の物だ」と聞き入れなかったり、とにかく検察と裁判所は袴田氏を犯人に仕立て上げたかった、という事です。

どこの国でも同じ事と思いますが、一旦犯罪者となった人は、犯罪者というフィルターを通して人々から見られるようになります。例えそれが冤罪だとしても、裁判所の判断ばかりが優先され、真実を見る事の無いままに、大多数の人は批判、あるいは誹謗中傷をするようになります。

再犯する、又は何度も犯罪を犯すなら話は別ですが、一度罪を侵した後に猛反省して社会の為に貢献する。このチャンスが中々得られないのも事実です。過去の経歴というのも企業が人を採用する判断基準の一つにどうしてもなってしまいますから、犯罪者という事が分かってしまえば、採用を思い留まりがちになります。私も企業側に立ってみたら絶対に採用しないなんて事は無い…とは言い切れません。

ですが、過去の事は無かった事には出来ないですから、将来をどう生きるか、これが重要になってくると思います。その為にも、更正のチャンスがきちんと与えられる場所が、犯罪者に限らず色々な人にとって一番必要なんです。

私自身もとある専門学校に通い、就活で内定を貰ったものの研修段階で会社を辞めてしまった過去があります。しばらくは自分の弱さに悔しさを感じる日々でしたが、バイトでもしないと一生立ち直れないですから、立ち直る事にしました。二つの冤罪事件と私の過去を一緒にするなんて月とスッポンですが、私にとってはそこが今の自分に繋がった、更正のチャンスでした。

社会というのは厳しいもので、評価を下げるのは簡単で、評価を上げるのは難しい事なんです。ルービンや袴田氏は、いわれもない嘘の犯罪で人生が大きく変わってしまい、そこから立ち直すのに途轍もない時間がかかっています。ボブ・ディランはルービンの無実を信じて、色々なライブでこの歌を歌ってきました。

何故日本で、袴田氏の無実を訴える歌が無いのかが不思議でたまりません。ボブ・ディランに出来て、何故日本人が出来ないのか。考えさせられます。

大変長くなりましたが、和訳です。今回の歌も長いので覚悟して見てください。

Pistols shots ring out in the bar room night
Enter Patty Valentine from the upper hall
She sees the bartender in a pool of blood
Cries out,"My God,they killed them all!"

夜、バールームに銃声が轟き、
上の階からパティ・ヴァレンタインが降りてきた。
血の海にバーテンダーが横たわるのを見て、
叫んだ、「何てこと、みんな殺されてるわ!

Here comes the story of the Hurricane
The man the authorities came to blame
For something that he never done
Put him in a prison cell but one time he could-a been
The champion of the world.

そしてハリケーンの話は始まる、
権威という権威がその男に罪を着せようとした。
何も悪い事はしちゃいないのに、
その男を牢獄に入れた、でも彼はなれるはずだった、
ボクシングの世界チャンピオンに。

Three bodies lying there does Patty see
And another man named Bello moving around mysteriously
"I didn't do it",he says and he throws up his hands,
"I was only robbing the register. I hope you understand.

パティが見たのは3人の死体、
そしてベロという男が不審な動きを見せた。
「俺はやっていない」彼はそう言い、手を挙げた。
「俺はレジの金を盗もうとしただけだ、分かってくれよ。」

"I saw them leaving," he says and he stops,
"One of us had better call up the cops."
And so Patty calls the cops
And they arrive on the scene
With their red lights flashing
In the hot New Jersey night.

「あいつらが逃げるのを見たんだ」と彼は言い、立ち止まった。
「誰か警察を呼んだ方が良いぜ。」
そしてパティが警察を呼び、
警察が駆けつけた、
暑いニュージャージーの夜、赤ランプを点滅させながら。

Meanwhile far away in another part of town
Rubin Carter and a couple of friends are driving around
Number one contender for the middleweight crown
Had no idea what kinda shit was about to go down

その間、街の遠い区画の中で、
ルービン・カーターと何人かの友達はドライブしていた。
ミドルウェイト級の第一挑戦者は、
どんな最悪な事が待ち構えているのか分からなかった。

When a cop pulled him over to the side of the road
Just like the time before and the time before that
In Patterson that's just the way things go
If you're black you might as well not show up on the street
'Less you wanna draw the heat.

警官が彼の車を脇に寄せさせた時ってのは、
前の時も、その前の時もそうなのさ。
パターソンじゃこれが当たり前の事さ。
あんたが黒人なら、街を出歩かない方が良い、
尋問が嫌ならば。

Alfred Bello had a partner and he had a rap for the cops
Him and Arthur Dexter Bradley were just out prowling around
He said,"I saw two men running out. They looked like middleweights.
They jumped into a white car with out-of-state plates."

アルフレッド・ベロは相方がいて、容疑がかかっていた。
そいつとアーサー・デクスター・ブラッドレーは辺りをうろついていた。
そいつは言った、「2人の男が逃げるのを見たんだ、ミドルウェイトの奴みたいだ。
他の州のナンバープレートをつけた白い車に乗っていったんだ。」

And Miss Patty Valentine just nodded her head
Cop said,"Wait a minute,boys,this one's not dead."
So they took him to the infirmary
And though this man could hardly see
They told him he could identify the guilty men.

そしてパティ・ヴァレンタインは頷いていた。
警官が言った、「待て。この男は死んでいない」
そして彼を病院に連れて行った。
その男は目がハッキリと見えなかったが、
犯罪者が誰なのか認識できると言った。

Four in the morning and they haul Rubin in
They took him to the hospital and they brought him upstairs
The wounded man looks up through his one dying eye
Says,"Why'd you bring him in here for? He ain't the guy!"

4時に、ルービンは連れていかれた。
病院に連行して、階段を上らせた。
そして傷ついた男は片目で見上げた。
そして言った、「なんでこいつを連れて来た?その男じゃない!

Here's the story of the Hurricane
The man the authorities came to blame
For something that he never done
Put in a prison cell but one time he could-a been the champion of the world.

そしてハリケーンの話は始まる、
権威という権威がその男に罪を着せようとした。
何も悪い事はしちゃいないのに、
その男を牢獄に入れた、でも彼はなれるはずだった、
ボクシングの世界チャンピオンに。

Four months later the ghettos are in flame
Rubin's in South America fighting for his name
While Arthur Dexter Bradley's still in the robbery game
And the cops are putting the screws to him looking for somebody to blame

4ヶ月後、ゲットーは燃え盛った。
南アメリカのルービン、名を挙げる為に戦っていた。
アーサー・デクスター・ブラッドレーが泥棒を働いている間、
警官共は罪を着せる奴を探して、締め上げようとしていた。

"Remember that murder that you happened in a bar?
Remember you said you saw the getaway car?
You think you'd like to play ball with the law?
Think it might-a been that fighter that you saw running that night?
Don't forget that you are white".

「あのバーの殺人を覚えているだろ?
逃げる車を見たと言ったんだろう?
警察と仲良くしたいようだな?
あの夜お前が見たのはボクサーだったって言ったんだろう?
お前が白人だという事を忘れるなよ?

Arthur Dexter Bradley said,"I'm really not sure."
The cop said,"A boy like you could use a break.
We got you for the motel job and we're talking to your friend Bello.
Now you don't wanna have to go back to jail,be a nice fellow.

アーサー・デクスター・ブラッドレーは言った「俺は本当に分からないんだ。」
警官が言った、「お前のようなガキはこの機会を逃しちゃいけない。
お前達にモーテルの仕事を見つけてやったぞ、ベロにも教えてやった。
もう牢屋にぶち込まれたくは無いだろう、善人になるんだよ。」

You'll be doing society a favor.
That son of a bitch is brave and getting braver.
We want to put his ass in stir.
We want to pin this triple murder on him.
He ain't no Gentleman Jim."

「社会に貢献でもするんだ、
あのクソ野郎、どんどん強気になりやがる。
あの野郎のケツをグチャグチャにしてやりたい、
あの野郎に3人の殺人の罪を着せてやりたい、
あいつは鉄腕ジムじゃねぇ。」

Rubin could take a man out with just one punch
But he never did like to talk about it all that much
"It's my work," he'd say,"and I do it for pay.
And when it's over I'd just as soon go on my way

ルービンはそのパンチ一回で相手をKO出来た。
でもその事についてあまり話したがらなかった。
「これは俺の仕事さ。」彼は言った、「俺は金の為にやっているのさ。
これが終われば、好きな事をして生きていきたいよ。

Up to some paradise.
Where the trout streams flow and the air is nice.
And ride a horse along a trail."
But then they took him to the jailhouse
Where they try to turn a man into a mouse.

天国に行くまでは。
マスの川が流れて、空気が綺麗な所で、
小道に沿って馬に乗って行きたいよ。」
でもその時、奴らはルービンを牢獄に入れた、
男をネズミに変えようとしていた。

All of Rubin's cards were marked in advance
The trial was a pig-circus. He never had a chance
The judge made Rubin's witnesses drunkards from the slums
To the white folks who watched he was a revolutionary bum

ルービンの手札は事前に把握された。
裁判など茶番、彼にチャンスは無かった。
判事は判断を下した、ルービンの証人などスラム街の呑んだくれに過ぎないと。
傍聴席の白人は、彼は乞食の革命家もどきだと思った。

And to the black folks he was just a crazy nigger
No one doubted that he pulled the trigger
And though they could not produce the gun
The DA said he was the one who did the deed
And the all-white jury agreed.

そして傍聴席の黒人に言う、彼はただの狂った黒人だと。
誰も彼が銃を撃った事を疑わなかった。
そして誰もその銃を提出出来なかったものの、
検事は言った、彼こそが犯罪者だと、
そして全ての白人の裁判員は賛成した。

Rubin Carter was falsely tried
The crime was murder 'one'. Guess who testified?
Bello and Bradley and they both baldly lied
And the newspapers—they all went along for the ride

ルービン・カーターは嘘の裁判に掛けられて、
罪状は第一級殺人と下された、誰が証言したと思う?
それはベロとブラッドリーの真っ赤な嘘、
そして新聞各社はその嘘に乗っかった。

How can the life of such a man
Be in the palm of some fool's hand?
To see him obviously framed
Couldn't help but make me feel ashamed
To live in a land
Where justice is a game.

彼の人生が愚か者の手によって、
いとも簡単に変えても良いのだろうか?
明らかに濡れ衣を着せられた彼を見て、
恥を知らずにはいられない、
正義など茶番でしかない国に生きる事を。

Now all the criminals in their coats and their ties
Are free to drink martinis and watch the sun rise
While Rubin sits like Buddha in a ten-foot cell
An innocent man in a living hell

上流階級の犯罪者達は、
無料でマティーニを飲み、日の出が見られる。
そしてルービンは仏陀のように独房に座る、
無実の男は生きる地獄に生きている。

Yes,that's the story of the Hurricane
But it won't be over 'til they clear his name
And give him back the time he's done
Put in a prison cell but one time he could-a been
The champion of the world.

そうさ、これがハリケーンの話。
でも彼が潔白を証明するまでは終わらない。
そして過ぎ去った時間を返してやるんだ。
その男は牢獄に入れられた、でも彼はなれるはずだった、
ボクシングの世界チャンピオンに。

こんな感じです。

今日はこの辺でお時間です。洋楽和訳のリクエスト・感想ございましたらコメントくださいませ。

ではまた。

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